皮膚の機能と構造 1.皮脂膜 2.表皮のバリア機能 3.表皮のターンオーバー 4.メラノサイト
2018年10月23日スキンケアに必要な皮膚の知識
1)皮膚の機能
皮膚には主に「保護膜」「体温調節」「センサー(感覚器)」の3つの働きがあり、心身の健康状態を表す「鏡」としての役割を担っています。「皮膚は健康の鏡」とよく言われ、「美肌を保つには心身の健康が大切。」です。
1.保護膜
皮膚は外界と身体の境界として、水分の喪失や透過を防ぎ、紫外線・微生物(細菌やウィルス)・化学物質・異物の侵入や物理的衝撃などから身体を守る。
2.体温調節
汗によって水分の排出を調節し、体温を保つ。
3.センサー(感覚器)
触覚・圧覚・痛覚・温覚・冷覚などの様々な皮膚感覚を受容する。
2)皮膚の構造
1.表面の構造
皮膚の表面には毛穴があり、毛穴の奥には皮脂腺が開口し、皮脂腺で生成された皮脂は毛穴を伝わって、皮膚の表面に分泌されます。毛穴からは溝が伸びて周辺の毛穴につながっています。これを皮溝といい、高くなっている部分が皮丘です。ここにはエクリン汗腺の穴があり、暑いときには汗が出ます。この皮丘と皮溝でできた模様をキメ(肌理)と言います。キメの形や大きさは皮膚の部位、肌質、性別などによって異なり、季節や加齢によっても変化します。
「キメの整った肌」は「綺麗な肌」を特徴づける1つで、日本人はキメが細かいと言われます。キメが細かい肌とは皮溝と皮丘でできた◇(ひし形)の1つ1つが小さく、細かく規則正しく並んでいます。キメの整った美しい肌は水分量と皮脂量のバランスが良く、皮丘がふっくら盛り上がっています。
キメが乱れる原因には、紫外線・摩擦・刺激物(肌に合わない化粧品)・微生物(細菌・ウィルス)等による皮膚の乾燥・炎症、また、ストレス等による生活習慣の乱れがあります。十分な睡眠が保てなくなると、成長ホルモンや女性ホルモンのバランスが崩れ、ターンオーバーも乱れて、キメの乱れの原因になります。
2.皮膚の断面の構造
皮膚は表面から表皮・真皮・皮下組織の3つの層で構成されています。表皮の最外層は角質層でその表面には皮脂膜が形成されます。皮膚組織の厚さは、角質層が0.01~0.03mm、表皮が0.1~0.3mm、真皮が1~3mmであり、それぞれ約10倍となっています。また、皮下組織(脂肪組織)は数mm前後で、個人差や部位差があります。
3)表皮・真皮の機能(働き)
美容という視点から皮膚の働きをみると、主なものは、1.皮膚表面の皮脂腺、2.表皮の角質層バリア、3.表皮のターンオーバー、4.メラノサイト、5.真皮の毛細血管、6.線維芽細胞、7.免疫の7つにまとめることができます。
1.皮脂膜
(1)皮脂膜の役割と分布
皮脂膜は皮膚の表面を被う保護膜で、皮脂膜から分泌された皮脂(トリグリセリド、スクワラン、遊離脂肪酸など)を主体として、汗腺から分泌された汗、皮膚表面の角質成分の分解物などが混ざり合ったph4~6の弱酸性を示す乳化物です。
皮脂膜は皮膚の水分の蒸散を抑えて、皮膚のつや・滑らかさを良くすると同時に、弱酸性であることで雑菌の繁殖を抑えたり、酸やアルカリなどの化学物質を中和したり、外部からの物理的刺激を緩和するなどの役割を持っています。
皮脂腺は真皮の毛穴にあり、毛が太いほど毛穴も皮脂腺も大きくなります。皮脂腺が多く分布するのは太い毛が多く生えている正中線(身体の真ん中)に沿った部位です。そのため、皮脂膜を形成するのは頭部から額、鼻周辺、胸や背中の中央の部位で、それ以外の部位では毛も細く少ないので、皮脂腺も小さく少なくなり、通常は膜状にはなりません。手掌や足の裏は皮脂腺自体が分布していません。
(2)皮脂分泌コントロール
皮脂分泌が多すぎると肌がべたついたり、皮脂に様々なものが付着して肌が汚れやすくなります。紫外線の照射などで発生した活性酸素によって皮脂が過酸化脂質になると、皮膚を刺激して炎症の原因となります。皮脂の量は性ホルモンに影響を受け、思春期から成人は多く、小児や老人は少なくなります。
性ホルモン(テストステロン・プロゲステロン)の影響で皮脂の生成と角質層の肥厚が同時に亢進すると、毛穴の入り口付近では大量に作られた皮脂が毛穴の周りからせり出してきた角質によってスムーズに排出されずに溜まり、乾燥して角栓を形成したり(白ニキビ、吹き出物)、酸化して黒くなって(黒ニキビ)、毛穴を目立たせてしまいます。さらにアクネ菌によって炎症を起こすと赤ニキビに、化膿して黄ニキビになります。
また、温度が上がると皮脂の流動性が増し、化粧くずれ(ファンデーションが落ちたり、ムラが生じる)や化粧くすみ(ファンデーション濡れによって色が暗くなる)の原因ともなります。
このように皮脂は分泌が多すぎることによってニキビ・吹き出物や化粧崩れに、また、老化や冬の寒さなどで皮脂分泌が少なすぎると肌のつやや滑らかさを失ってしまいます。
したがって、肌の汚れを取り除くこと、ターンオーバーを正常化して余分な角質をとり、毛穴のつまりを解消して皮脂の分泌をスムーズにすること、過剰な皮脂分泌を抑えること、皮脂膜を適度に保つことなどによって皮脂を適度にコントロールすることが大切です。
ターンオーバーを正常化してくれるものにビタミンAの外用剤(医療機関での処方に限られるトレチノインや化粧品に配合されているレチノール等)、角質のケアにはケミカルピーリング、皮脂分泌を正常化にはビタミンCのイオン導入がお勧めです。
2.角質層のバリア機能
(1)バリアの意味
皮膚の表皮の最外層を角質層といいます。角質層は角質細胞という死んだ細胞が数層から数十層積み重なった「ラメラ構造」をしています。角質細胞と角質細胞の間には細胞間脂質があります。角質層の厚さは0.01~0.03mmで外界とのバリアとして重要な役割を担っています。
私達は両生類のような厚い皮膚を持っていませんが、長風呂に浸かっても身体の中に水が入ってくることはなく、暑い夏に乾燥した屋外にいても少々のことでは干上がってしまうこともありません。これは、表皮の角質層が強固なバリアとして進化したおかげです。
バリア機能とは体内からの水分の喪失を防いで皮膚の水分含量を適度に保持するという意味と、体外からの細菌や化学物質・紫外線などを容易に侵入させないという2つの意味があります。
皮膚に貼って効く鎮痛剤や麻酔剤はバリアを超えて作用する薬剤ですが、皮膚の角質層のバリアを超えて経皮吸収できる物質の分子量は500以下とされます。基礎化粧品の成分には分子量が500以下のものもありますが、皮脂や細胞間脂質、細胞膜は脂質であるため、バリアを超えるには脂溶性の成分である必要があります。ビタミンC誘導体(リン酸アスコルビン酸Na/MG)の分子量は500以下ですが、水溶性であるため、通常、イオン導入や超音波導入等で深部へ浸透させます。
※コラーゲンの分子量は約30万、ヒアルロン酸は低分子でも2000~5000、クリームの基剤となる植物油中の脂肪酸トリエステルは数千あり、経皮吸収されません。
(2)保湿の主体
皮膚の保湿は皮脂膜と角質層が担っていますが、その主体は角質層にあります。角質層の保湿のしくみは「ラメラ構造」にあります。角質細胞の中にはNMF(Natural Moisturizing Factor=天然保湿因子)が含まれており、皮膚の内部からしみ出してきた水分を角質細胞内に取り込んで、角質細胞を構成しているケラチンを柔らかくし、一方、角質細胞間脂質はその水分を逃さないようにしています。角質層には水分を抱き込んで逃さないよう「W保湿」のしくみを備えています。
(3)セラミド
角質細胞間脂質は脂質二重膜が層状に何層も積み重ねられ、ラメラ構造を形成しています。細胞間脂質の構成は重量比、セラミド50%、コレステロール25%、脂肪酸10~20%となっており、セラミドがラメラ構造の重要な役割を担っています。セラミドには親水面と疎水面があり、親水面で水と結合(結合水=蒸発しにくい)し、さらに疎水面で層を作っています。
(4)乾燥、肌荒れ(かぶれ)、敏感肌、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎の違い
皮膚がかぶれている状態を示す言葉が多くありますが、いづれもバリア機能が壊れた状態です。軽いバリア機能障害から並べると、乾燥<肌荒れ(かぶれ)・敏感肌<アレルギー性皮膚炎<アトピー性皮膚炎となります。バリアが壊れると、微生物(細菌やウィルス)や化学物質が入りやすくなり、皮膚に炎症(発赤や腫脹、痒みなど)がおこります。真皮に炎症があると痛みが、表皮に炎症があると痒みが出ます。
①皮膚の乾燥はバリア機能が壊れそうな状態、②アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)は無いが、擦り過ぎたりしてバリア機能が壊れ、皮膚に塗る化粧品等に刺激を受けやすくなるのが敏感肌、③何らかのアレルギーが原因で急性のアレルギー性皮膚炎、④アトピー素因があり炎症や湿疹が慢性化したものがアトピー性皮膚炎ということになります。
外界から何でも入りやすくなった状態の皮膚は何にでも刺激を受けやすいので、皮膚のバリア機能障害を治すにはシンプルなケアがお勧めです。水分とセラミドを補給した後、皮脂の似た成分を持つホホバオイルかスクワランでカバーします。処方薬を使う場合はヘパリン類似物質を含んだビーソフテンローション等の保湿剤を使用した後、ビーソフテンクリームや白色ワセリン(プロペト)、ホホバオイル等でカバーします。炎症がある場合には冷却します。
当院では、アトピー性皮膚炎や敏感肌などのバリア機能が壊れた方の肌の修復用のために、関連会社にて2種類のセラミドと温泉水を配合したスパセラミドエッセンスとフェイスマスクを開発し、販売しております。
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3.表皮のターンオーバー
(1)表皮ターンオーバーの役割
表皮は内側から基底層、有棘層(ゆうきょくそう)、顆粒層、角質層の順に積み重なった構造をしており、厚さは0.1~0.3mm程度で、角質層の約10倍です。基底層の基底細胞が2週間前後のサイクルで分裂(2つのうち1つは基底層に残る)して生まれた細胞が、後から生まれた細胞によって押し上げられ、徐々に扁平な形に変化しながら皮膚表面に向かい、やがて角質細胞になり、最終的にアカとなって剥がれ落ちていきます。このように、表皮が常に新しい細胞に置き換わっていくことを「ターンオーバー」(表皮の新陳代謝)といいます。
表皮組織は基底層で生まれた細胞が角質細胞になるまでが約2週間、角質細胞になってから剥がれ落ちるまでに2週間、合計4週間、約28日をサイクルとして絶えず生まれ変わっています。月の周期と表皮・月経のサイクルが同じ28日なのは、生命が太古の海で生まれ、月の満ち引きに影響されて生きてきた名残と言われています。
また、表皮のターンオーバーは単に表皮細胞が生まれ変わるだけではなく、その過程で角質層の「W保湿」機能に不可欠の角質細胞間脂質(セラミド等)とNMF(天然保湿因子)を合成します。つまり、表皮ターンオーバーが順調でないとキメの整ったバリア力のある良質の角質層はできないということです。
(2)ターンオーバーの速度の変化
表皮ターンオーバーのサイクルは約28日ですが、皮膚の状態によってかなり大きく変化することが分かっています。例えば、日焼けをした時には、肌が赤く腫れ、その数日後には“皮が剥ける”という現象が起こってきます。これは日焼けによってダメージを受けた表皮が修復を急ぐために角質が剥がれ落ちて起こる症状ですが、この時のターンオーバーは非常に速まっています。
また、一般的に皮膚が炎症を起こした時は表皮のターンオーバーが速まり、通常4週間かかるところ、おそらく1週間以下になる場合もあるものと思われます。そして、表皮のターンオーバーのサイクルが速まると、角質細胞の生成が不完全で、角質層は小さく不揃いな細胞で占められ、角質細胞間脂質やNMFの生成も不足するため、バリア力が弱く乾燥した状態となり、肌荒れなどを生じやすくなります。
逆に、老化や寒さなどによって表皮ターンオーバーが遅れる場合もあります。表皮ターンオーバーが遅れると、角質細胞がはがれるまでの時間が延長することによって、結果的に皮膚表面に露出した古い角質細胞がより長時間表面に留まることとなり、その間に細胞の表面が粗造化して、滑らかさやつやを失ってくすみを生じます。
このように、表皮ターンオーバーには適度なサイクルがあり、それが早すぎても遅すぎても角質層の質を低下させ美しく強い角質層バリアの形成に支障を生じることになります。
(3)ターンオーバーに合わせた治療とスキンケア
患者様から、「どのくらいのペースで何回くらい治療に通えばいいですか?」という質問をよくお受けします。
例えば、皮膚に外傷を負って縫合した後、抜糸する時期は通常1週間後ですが、この時期はかなりのペースで皮膚が回復しようとターンオーバーを早めています。皮膚の傷が回復するのに1週間、良くなるには最低でもターンオーバー1回転、さらに傷が綺麗になるには3ケ月~半年前後以上の期間を要します。
ですので、皮膚に炎症がある場合は、皮膚の健康を取り戻す期間として、治療期間としては少なくとも1週間に1度の通院を1ヶ月(ターンオーバー1回転)~3ヶ月(ターンオーバー3回転。皮膚の炎症の程度により期間には違いが出ます。)、さらに、皮膚をより綺麗にしていく治療を望まれる場合は、フォトRF、ポラリス、フラクセルでコラーゲンを増やす傷あとをの治療や、トレチノインやハイドロキノンをホームケアで使って炎症後色素沈着を治療します。この時期は少なくとも3週間から1か月に1度のペースで5回程の通院をお勧めします。
最初の1ケ月目の来院ペースが多いほど、またお若い患者様ほど、皮膚が良くなっていくペースが速いです。
一旦傷んだ肌の皮膚の健康を取り戻し、「綺麗な肌ですね!」と周りから言われるようになるには、半年~1年程度の治療とスキンケアの期間を要します。
4.メラノサイト
(1)肌の色
肌の色は主にメラニンの褐色と、血液中のヘモグロビンによる赤み、カロチンによる黄みで構成され、人それぞれの持つ色素の量とバランスによって個性を与えます。この中でメラニン色素は表皮の基底層のメラノサイト(メラニン色素を作る細胞)によってメラニン顆粒(メラノソーム)というの中につくられます。メラノサイトは表皮の基底細胞36個に対して1個の密度で分布し、それぞれのメラノサイトが守備範囲の表皮細胞に均一に腕を伸ばしてメラニン顆粒を注入し、肌の色はムラなく自然な感じになると考えられています。
(2)日焼けの原因「紫外線」
太陽光線はさまざまな波長の電磁波からなり、波長の短いほうからガンマ線・エックス線・紫外線・可視光線・赤外線・マイクロ波・電波などに分類されます。このうち、波長の短いガンマ線・エックス線およびUVC(短波長紫外線)と、UVB(中波長紫外線)は地球を取り巻くオゾン層や大気圏を通過するときにカットされますが、290nm以上のUVB(中波長紫外線)とUVA(長波長紫外線)の一部は地上に届き、肌にさまざまな影響を与えます。
一般的に海水浴や山登りなどで日焼けをするのはUVBの仕業です。UVBは、表皮からその下の真皮の浅い部分にまで達して皮膚に炎症を起こさせます。炎症による『紅斑』をおこす力がUVAの千倍近くもあり、日焼けによる急性の炎症と炎症後色素沈着を起こす原因となっています。
UVAは、真皮から皮下組織にまで到達します。UVBのような強い作用はありませんが、長期間浴び続けると、深いシワやシミを作る原因となります。これを通常の加齢とは区別して『光老化』といいます。
(3)日焼け反応
強いUVBを受けた皮膚では活性酸素や脂質に活性酵素が結合した過酸化脂質が発生し、細胞を傷つけます。傷つけられた細胞からはさまざまな化学伝達物質が放出されて炎症反応が始まります。真皮の毛細血管の周辺にある肥満細胞(マスト細胞)からは、ヒスタミンなどの炎症を引き起こす物質が放出され、その影響で毛細血管は拡張し、血管内から体液が漏れ出して皮膚組織内にたまります。皮膚が赤く腫れ上がるのはこのためです。これが「サンバーン」という状態で、日焼け直後から現れ、24時間以内にピークに達する反応です。
こうした一連の炎症反応が刺激となって表皮の基底層にあるメラノサイトが活性化し、盛んにメラニン色素をつくり、どんどんと表皮細胞に送り込みます。これを「サンタン」といい、「サンバーン」の後、肌色が黒くなるのはこのためです。
また炎症は紫外線によって傷ついた皮膚組織の修復を早める合図にもなっています。そのため、表皮の細胞分裂が加速されて、新しい組織の構築が急速に進み、傷ついた組織は剥がれていきます。日焼け後、皮が剥けるのはこのためです。ただし、組織修復のために新生される表皮細胞は、本来のバリア力のある角質層を形成できないため、皮膚は乾燥して硬く透明感のない状態になりがちです。
このように、UVBを浴びた皮膚は炎症を伴う複雑な経過を経てダイナミックな変化を示した後、やがて、さまざまな機能がバランスをとりもどして正常化に向かいます。ところが、日焼けを繰り返しているとメラノサイトの一部が活発化したまま、メラニン色素を大量につくり続けたり、メラニンの排泄が滞ることによって、シミやソバカス・くすみなどの症状が残る場合があります。
(4)光老化に対する美白のスキンケア
最も重要なことは、日焼けに対する予防から日焼け後の肌の修復までの経過を総合的にケアするということです。日焼けによる炎症が色素沈着や乾燥などを引き起こしていくプロセスを5つのステップに分けての対策法は以下のとおりです。
①日焼けしないように心がける
通常は日差しに対して意識を持って生活をしていても、かなりの紫外線を受けてしまうものです。日常生活においても、帽子やUVクリーム・ファンデーションで肌を守り、素肌を紫外線にさらさない習慣が美しく健やかな肌を保つ基本となります。
②日焼けによる炎症を最小限に抑える
日焼けによる炎症が悪化すればするほど、その後の色素沈着や皮膚組織のダメージがひどくなります。生活の中でちょっとした日焼けでも小さな炎症を繰り返しているといわれています。毎日のお手入れにおいても、炎症の原因となる活性酸素や過酸化脂質の生成を抑えることが大切です(抗酸化)。海や山でしっかり日焼けしてしまった場合は、まずは氷などで冷し、炎症や痛みを和らげることが先決です。さらに化膿などの二次感染をおこさないように、清潔を心がけることも大切です。
③皮膚の保湿を念入りにする
炎症によって傷ついた組織のはがれや不完全な角質層バリアの保湿力を補うために、通常よりも念入りな保湿が必要です。化粧水はしっかり浸透させるか、マスクに含浸させてパックするなどしていたわりましょう。
④メラニンの過剰生成を抑制する
紫外線や炎症反応で活発化した酸化酵素チロシナーゼ(メラニンの合成酵素)を還元するビタミンC・ハイドロキノンなどの有効成分配合する美白化粧品などを用います。ビタミンCは水溶性のため、塗るだけでは私たちの皮膚には浸透しにくいため、ホームケアでのイオン導入やサロンでのビタミントリートメントがお勧めです。
チロシンがだんだん酸化して濃くなり、シミやソバカスになっていきます。
強力な酸化物のイソジン(シミ)にビタミンCを入れ、還元(美白)された様子です。
⑤過剰なメラニンを速やかに取り除く
表皮の新陳代謝が衰えている場合は、日焼け後の色素沈着が長期間にわたり、くすみやシミなどの症状を残す場合があります。新陳代謝を高めるトリートメントやパックによって、滞ったメラニンの排泄を円滑にすることが有効です。また、フルーツ酸で古くなった角質細胞とともに除去する方法(ケミカルピーリング)も有効です。日焼けといえば、強い紫外線を浴びるアウトドアのレジャーが思い浮かぶかもしれませんが、むしろ注意しなければならないのは生活紫外線です。私たちは知らず知らずのうちに日常生活の中で、紫外線を浴びており、たとえ皮膚が赤く腫れ上がらなくても、その影響を蓄積し続け、その総量はレジャーで受ける量の10倍以上になるという報告もあります。
5.毛細血管
(1)毛細血管の働き
皮膚の細胞の代謝活動を支える源は血行です。真皮の最上部、基底膜を境に表皮と接する乳頭層には毛細血管が分布しています。皮膚の代謝に必要な栄養分や酸素は動脈血に溶け込んで、心臓から全身へ張り巡らされた動脈を通って運ばれます。そして動脈は最終的には毛細血管に達し、そこで血中に溶け込んでいた豊富な酸素と栄養分が組織液中に拡散などによって浸み出し、皮膚の細胞に供給されます。一方、皮膚の細胞は酸素や栄養分を利用して代謝活動を行い、二酸化炭素や老廃物を組織中に放出します。これらの廃棄物は拡散によって組織液中を移動し、やがて毛細血管に回収されたあと静脈やリンパ管を経て最終的には体外に排泄されます。
(2)皮膚の血行は体温調節の犠牲
私たちの体温は、個人差もありますが、だいたい37℃に保たれるように調節されています。体の中心部には脳や心臓などの、生きていくために正常に機能し続けなければならない重要な器官があり、これらの器官が円滑に機能するためには、ある一定の温度が必要なのです。
ところが、皮膚温は0~37℃付近まで大きく変化します。その理由は、私たちの身体は体温の安定を図るために皮膚の血流を調節し、体内の熱産生と外界への熱放射(温湿度や気流などに大きく左右される)のバランスをとり、その影響を受けて皮膚温が変化します。つまり、皮膚の代謝活動に影響する毛細血管の働きを左右するのです。
夏の炎天下では、額の皮膚温は体温近くになることもありますし、また、吹雪の中を歩いているときの額の皮膚温は0℃近くになることも稀ではありません。
また、皮膚温というのは体の部位によっても異なります。気温が高いときには部位の差はあまりありませんが、低くなるにつれて末梢部(特に、手足や頬の皮膚)から低下していきます。これは体の中心部の温度(体温)の安定を図るため、末梢部の皮膚の血管を収縮し、体の中心部からの温かい血液が体表面に循環して冷えることを防いでいるからです。
しかし、これは一方で皮膚への酸素や栄養の補給と皮膚からの二酸化炭素や老廃物の排泄が滞ることを意味しています。
さらに皮膚の血行の低下に追い打ちをかけるのは老化現象です。気温が高い時は年代による差はほとんどありませんが、皮膚の血行が悪くなって皮膚温は低下し、また、その低下は年代の高い人ほど大きくなります。
(3)適度な血行のコントロール
このように、老化した皮膚では血行が少なく、また、20代の若い皮膚でも体調不良や寒さなどによって毛細血管を流れる血行が不足すると、皮膚全体の代謝活動が低下し、例えば、表皮のターンオーバーの遅れ、それに伴う角質層バリアの低下などを招き、肌荒れや小ジワの原因となります。このような場合には、トリートメント・パック・入浴などで血行の不足を補う必要があります。
一方、日焼けなどの炎症によって毛細血管の物質透過性が異常に高まったり血行の過剰が起きている場合には、消炎パックやローションなどでひとまず過剰な状態を鎮静化する必要があります。
このように、皮膚の細胞と物質のやりとりを行う毛細血管の血行は多過ぎても、少な過ぎても問題であり、適度にコントロールされる必要があるといえます。
6.線維芽細胞
(1)真皮層
真皮は基底膜を境に表皮の内側にある組織で、厚さは表皮の約10倍の1~3mmです。真皮は約80%が水で、それ以外の大部分はコラーゲン(膠原線維)とエラスチン(弾性線維)とヒアルロン酸などのムコ多糖類および線維芽細胞で構成されています。さらにそこに、付属機関である皮脂腺や汗腺、血管、リンパ管、神経などが加わって真皮層を構成しています。真皮は表皮の働きを支えている大切な組織であると同時に、皮膚の張り・弾力の源でもあります。
(2)線維芽細胞の働き
真皮を構成するコラーゲンやエラスチンなどの線維およびその間を埋めるゼリー状のヒアルロン酸はすべて線維芽細胞によって生成されます。また、それと同時に古くなったこれらの線維やヒアルロン酸は線維芽細胞が作り出す酵素によって分解されます。すなわち、線維芽細胞は新しい組織を作ると同時に古くなった組織を壊すことによって真皮の組織を常にリフレッシュしています。そして、真皮は表皮と比べるとはるかにゆっくりですが、数ヶ月から数年のサイクルでターンオーバーしているといわれています。
ところが、老化に伴いこの線維芽細胞自身の働きが鈍ってきます。その結果、新しい組織がなかなか作られなくなるばかりか古くなった組織の分解も滞るため、真皮は古い組織で占められることになり、水分保持量が減少し、真皮全体として萎縮してしまいます。その結果、皮膚の表面のハリ弾力が減少して、たるみやシワを生じることになると考えられています。
したがって、老化した肌では線維芽細胞の働きを手助けするような有効成分が有用となります。
7.免疫
8.まとめ
これらの美容上大切な皮膚の働き全体を通していえることは、皮膚の働きには、ある適正なレベルやサイクルの範囲があって、それを外れると不具合が生じるということ、また、皮膚の働きは互いに関連してバランスが保たれているということです。
参考図書
「美容皮膚科学」美容皮膚科学会監修 南山堂
「アロマ環境協会会報誌」